内 村 鑑 三

1.内村鑑三全集をめぐって
人間の一生には、その後の歩みを左右しかねないような出会いがあるものです。私と内村鑑三との出会いもそのひとつです。大学2年のころ、私はある衆議院議員の学生秘書のアルバイトをしておりました。朝7時前には背広を着て、学生寮を出て、永田町の議員会館に出勤するという学生と秘書の二重生活をおくっておりました。その代議士は非常に本が好きな方で、よく買いに行かされました。そんな本のひとつが、『内村鑑三全集』(全40巻、岩波書店)でした。はじめはただ買って届けるだけだったのですが、そのうちに気になりはじめました。翌年の春、私は秘書をやめ、学業に専念???できる立場になりましたが、内村鑑三の名は常に重くのしかかったままでした。それでとりあえず1冊買い求め、読み始めました。予約出版だから売れないと書店からことわられましたが、いずれ全部買うからと言って、第1回配本分を買い求めました。日本にこんな思想家がいたのか、まずどぎもを抜かれました。帰省する時には今はない東北本線夜行急行列車の薄暗いデッキに新聞をしいて、むさぼるように読んだものでした。また不思議なこともあるもので、その年の夏から、学生寮があった田無市の本屋でアルバイトをはじめましたが、なんとなんと内村全集の刊行分がならんでいるではありませんか。事情を聞いたら、予約した人が転勤になってしまい、岩波は返本ができないので、とのことでした。私にすれば私を待っていてくれたとしか思えませんでした。既刊分の購入で最初の1か月分のバイト代のほとんどが消えました。内村全集が完結したのは、丁度大学を卒業する時でした。私にすれば永田町での出会いから始まって学生生活の半分以上この全集にかかわっていたことになります。また社会人になってからも、山口、東京、岩手と、常に一緒でした。2001年、新資料が追加されて、第2次全集が刊行されました。くだんの全集は今は大船渡市内の公共の場所に置かれて読者を待っております。

2.内村先生との出会い
私にとってはそれまでは内村鑑三といえば日本史や倫理社会の教科書に載っている歴史上の人物でしたが、それが内村先生になったのは、1981年秋のことでした。 厳密に校訂された全集のおかげで、テキストをとおしての学びはできます。それでも何か物足りないものがありました。 内村の思想的な源(みなもと)としての存在、今から約2000年前に十字架刑にされたひとりの人物をぬきにしては内村鑑三を本当に読むことはできないと感じました。内村鑑三の集会は内村の死とともに解散し、組織としては存在しておりません。 それでも彼の死後、南原繁や矢内原忠雄などの東大総長はじめ内村の教え子の多くの人材が戦後日本の民主化に努力してきたこと。そして旧約聖書イザヤ書にある、エッサイのひこばえのように内村鑑三の無教会の福音に学ぶかたがたが全国各地で善い働きをされていることを知りました。私は1981年、当時80歳をすぎてもなお集会を開いておられた石原兵永先生のことを知り、直接お電話して入会を許していただきました。先生は約20年間内村のもとで助手をつとめられ、内村の葬儀では司式をされたそうです。あとから知ったことですが、先生は私のふるさと大船渡や陸前高田にも伝道にこられたことがあるとのこと、しかも高校生のころ劣等生だったわたくしをご指導下さり、なんとか大学まで合格させて下さった、陸前高田市在住の私の恩師とは格別の関係にあることを知って、世間の狭さに本当におどろいたものでした。その方に石原先生をご紹介いただいたわけではありませんのに。
3.キリスト教基礎講座 内村鑑三研究ゼミ
当時無教会の有志の方々によってキリスト教基礎講座という集まりが、運営されておりました。内容はギリシャ語、ヘブライ語や神学研究、バッハ研究などでしたがなかでも思い出深いのが内村鑑三研究ゼミでした。ゼミですから、講義と違い参加者1人ひとりが輪番で報告する形式でした。きつかったですけど、この時の経験が今の私の問題意識につながっています。取り上げたテキストは、日露戦争から第一次世界大戦にかけての非戦平和論、『ガリラヤの道』、『十字架の道』などの内村の代表的な著作でした。たんに著作を読み込むだけでなく、できるだけ日記や書簡なども参照して、内村の内在まで迫りたいと、遅くまで大学の図書館にこもって、戦前刊行された全集に目を通したことが、なつかしく思い出されます。(当時はまだ岩波の内村全集は刊行の途中でした。)このコーナーでは内村の文章をジャンルを問わずをご紹介しつつ、私自身の所見をみなさまに提示していきたいと思っています。また現時点では公表するほどに整理しておりませんが、私は1994年5月明治大学研究棟にて開催された第9回内村鑑三研究セミナーにおいて『内村鑑三における国家の問題 小日本主義を中心に』と題して発表させていただきました。その際いろいろご指摘をうけた点を含めてまとめる作業が終了したらこのページで報告したいと思っております。ぜひご覧いただきご批評いただければと存じます。また別のコーナーでは内村鑑三の英文のなかから適宜私が選んで英和対照で私自身の訳文をつけてご紹介するコーナーも設けてあります。ぜひ入ってみて下さい。
![]()
ご注意:私は思想史の専門家でありませんが、内村鑑三ほど多面的な発言をした思想家は少ないのではないかと思います。このページでご紹介できる内村の文章はHPの性格上、あまり長文のものは取り上げられません。したがいまして、ごく一部に過ぎないことをご承知おき下さい。もしこれを通じてご関心をお持ちの方は、岩波文庫に数冊ありますので、ぜひそれらをお読みいただきたいと存知ます。特にも『後世への最大遺物』はお薦めです。
| 番号 | 論文名 | 全集巻 | 備考(初出等) |
| 9 | 利巧者 | 20 | 『聖書之研究』 |
| 8 | 加賀の金沢 | 20 | 『聖書之研究』 |
| 7 | 満州問題解決の精神 | 11 | 『万朝報』 |
| 6 | 旧友オランダ | 28 | 『国民新聞』 |
| 5 | 浅い日本人 | 28 | 『聖書之研究』 |
| 4 | 戦争廃止論 | 11 | 『万朝報』 |
| 3 | 教育の目的 | 32 | 『聖書之研究』 |
| 2 | 辱かしめられし時 | 10 | 『無教会』 |
| 1 | 二個の動物園(一名 政治家動物学) | 10 | 『万朝報』 |