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更新日 2012-05-16 | 作成日 2008-08-25

方言のすばらしさ

「やっぱり、関東と仲良くするなんて、無理やろ。」
「いや、でも、あの言い伝えの女の子が来てくれたんやから、きっと、なんとかしてくれはるんちゃう。」
大きな月が照らす春の夜、ある村で集会が開かれていた。
「皆、静しゅくに。」
 すると、一人の女子が
「私は、関西の方言も関東の方言も、それぞれすばらしいと思うんです。だから、お互いが仲良くできたら、いいんですけど。」
と言った。

私の名前は、美希。
 どうして、ここに来たのか、わからない。私が言い伝えの女の子だなんて、夢にも思わなかった。そんなこと正直言って、信じたくない。
でも、あることがきっかけで、ここに来ることになったんだ。
それは、良く晴れた春の日のこと。
「あ、おおきに~。」
「おまえ、それはおかしいだろ~」
「ほんと。ふつうはありがとうだよな。」
また、始まった。これが学校でのいつものパターン。
 実は、私はこの春、お父さんの仕事の都合で、大阪から東京に引っ越してきたばかり。でも、関西弁で話すと、こうしてクラスメイトにばかにされるんだ。
 今だって、そうだ。私はただ、消しゴムを前の人に拾ってもらっただけ。だから、ありがとうって伝えたかっただけ。ただそれだけなのに、こうして「おおきに。」って言っただけで、からかわれるんだ。
何でだろう。言葉の違いなんて、あって当たり前なのに。だって、赤ちゃんって、まわりの人の言葉をまねして、覚えて、そして話すのに。
沖縄の赤ちゃんが、初めて話した言葉が、北海道の方言だったなんておかしいのに。でも、ここの人たちは、それを分かってない。
分かってくれないし、認めてもくれない。そして、私は、いつの間にかひとりぼっちになってしまった。
「私は、どうしたらええんやろ。」

キーンコーン、カンコーン。
「帰りのあいさつをします。さようなら。」
「さようなら~。」
男子が、われ先にと教室を飛び出す。その後ろを女子がひそひそと話し、くすくす笑って固まりになって出て行く。前は、こんなことはなかったのに・・・
「美希ちゃん。帰ろう。」
「みき、先行ってるでぇ」
って、誰かが誘ってくれた。話しかけてくれた。でも、ここでは、私に話しかけると、自分まで意地悪されそうだから、誰も近寄ろうとはしない。そんなの大嫌い。私は、負けない。正々堂々とたたかうんだから・・・
 校門を出てすぐの所に、牧場がある。学校帰りには、そこに寄って、ふかふかの芝生に寝ころんでねむるのが、私の日課。
 ばふっ。
ランドセルを放り投げて、お日様の光をいっぱいに浴びた芝生に寝ころぶと、学校でのいやなことも全部忘れてしまう。
「あぁ~。大阪の学校がなつかしいな。」
そういって、目を閉じた。今日もいつもみたいに少し眠ったら、家に帰ろうっと。そう思ったのが、ことの始まりだ。
「だ・い・・じょう・・ぶ?」
「ええ?」
目を開けると、私と同じくらいの年の男の子の顔。
「え?ええっ。あんた誰なん?」
「こっちこそ、おまえだれ?」
「あっ。うちは美希。あんたは?」
「ぼくは、ことだま。あっちの西村に住んで るんや。ちなみに年は十歳。」
「えっ。私も十歳。」
「そんなこと、どうでもええから。それより あんた、どこの村の人」
「え、私?私は、今は東京に住んでいるけど、 生まれと育ちは大阪。」
「トウキョウ?オオサカ?何言うてんねん。」
「だから、日本よ。お寿司とか着物とかいろいろあるやろ?何で、東京や大阪をしらへんの?」
「しらへんわ。あんた、おかしいと違うか。」
「そんなん。私かて知らんし。牧場で寝てたら、いつの間にかここに来てたんやから。」
「何それ?まぁええか。とりあえず、ぼくの村に来たら?もう暗うなってきたし、どうせ泊まる所もないんやろ。」
もしかして、私、違う星に来てしもたんとちがうやろか。
「何、ぼおっとしてんのや。はよ行かな、日が暮れてまう。」
「あ?うん。」
こうして、私はことだま君についていったんだ。
「ここが、ことだま君の村?」
「そう。」
 ことだま君に連れられてやってきたのは、ちょっと田舎っぽい感じの村。
「まっ、とりあえず、村長さんの所に行こう。 ここからやと、ちょっと遠いけど。その間に美希がどうやってここに来たんか、教えてくれたらええやんか。」
「そうやな。何で、私がここに来たかってゆうとな。実は・・・」
それから、私は今までのことをぜんぶことだまに話した。
そうやって話しているうちに、村長さんの家に着いた。茶色くておもむきのある重い戸を開けると、そこには白いひげの年老いた『村長』が座っていた。
「村長さん。急にすみません。実はちょっと お話がありまして。」
すると、村長は、私を見るやいなや、いきなり、椅子から立ち上がり、
「おまえ、どこからそのおじょうさんを・・ ・」
「えっ、こいつが森に倒れていて・・・」
「おっ、おまえ、何という言い方を。こいつなんぞと言うものではない。きっと、この おじょうさまが、この村を救ってくださるときが来たんじゃ。」
「あの、すみません。これって、どういうことですか。この村を救うってどういうことですか?」
「実は、私の父の父。つまり、祖父が、今から六十年ほど前、重い病気にかかったしもうた。そのとき祖父は、髪が長くて首に何かを付けている者が、この村を救ってくれると言って、亡くなったのです。
祖父は、予言者だったのです。その人こそあなたじゃろ。どうか、この村を救ってください。」
「でも、待ってください。村を救うって、何が起こっているんですか。」
「実は、この国は、関東と関西の方言を使う二つの村に分かれてましてな。わたしたちは関西の方言を使う西の村のもんなんですが、東の村の村長が、『関東の方言はすばらしい、関西の方言は使ってはだめだ。』と いうのじゃ。わたしたちでは、あの村長を説得することはできません。いつ、戦いを仕掛けてくるかもしれません。どうか、関東の村長を説得してください。まあ、今日はとりあえずゆっくりとしてください。」
確かに私は髪も長いし、転校するときに親友からもらったネックレスはいつも下げているけれど・・・。

 そんなわけで、村では歓迎のお祭りが開かれた。ごちそうに踊り、そして音楽。それはそれは、もう大変。そうこうしているうちに、私は眠ってしまったらしい。
村長さんに起こされると、村の人はもう、誰もいなかった。
「よく眠ってしまっておられたもんじゃから、 村のもんは帰らせてしまいました。今日はとりあえず、ことだまの家で泊まってくだされ。ことだま、案内しなさい。」
それから、ことだまの家に案内してもらった。「ここが、ぼくの家。」
「わぁ、きれいな家やね。」
戸を開けると、やさしそうなおばあさんがいた。
「ぼくは、おばあちゃんとお母さんとお父さんと妹の五人家族なんや。でも、妹はもう寝ているし、父さんと母さんは祭りの後片付けに出ているし、おばあちゃんしかおらんけど。」
「ことだま。あんたと美希さんは屋根裏で寝い。布団しいといたから。」
とても優しそうなおばあちゃんで、おっとりとした言い方だった。
「ありがとうございます。では、お休みなさい。」
屋根裏はとても広くて、星がよく見えてきれいだった。
「東京に引っこしてきてから、こんなにきれいな星空見てなかったわ。めっちゃきれいやん。」
「そんなんゆうてんと、はよ寝い。」
「ごめん。おやすみ。」
こうして、私はぐっすりと眠ってしまった。

 「おい、起きろ。」
ことだまにたたき起こされた。
「いたっ。もう!朝から、いきなりたたき起こすことないやろ。」
「消えた。村の人がみんな消えた」
「消っ・・・消えた。」
「いない。美希、そっちはどうや。」
「ここの家にも、だれもおらんわ。」
ことだまにたたき起こされたから、すぐに村を歩き回ったけれど、誰もいない!一人も残っていなかった。
「もしかして、関東の奴らが、捕まえていったのと違うやろか。」
私とことだまは、関東の村に行くことにした。
「ここが、関東の村・・・」
関東の村は、西の村に比べて、都会っぽい。ビルが建っていて、東京に似ていた。
「多分、会議所に閉じこめられているんや。会議所に行こう。」
関東の会議所は、国会議事堂のような、お城のような立派な建物だった。
「僕らの村の人を返せ。」
ドアから、スーツを着たおじいさんが出てきた。
「村にまだ、子どもが残っていたのか。」
どうやら、その人は関東の村長さんらしい。村長らしき人は、にやりと笑うと、
「こいつらも捕まえろ。」
と、叫んだ。すると、同じ黒いスーツを着た二人組がこっちに向かって走ってきた。
「待って。」
私は、思わず叫んでいた。
「この村、西の村の人は、みんな仲直りしたいと思っているんや。村の人全員が、関西の方言も関東の方言もそれぞれにいいところがあるって理解しているんや。なのに、 何でそうしてますます対立させようとするんや。西の村の人のことを信じてあげいいな。」
「それは、本当か。」
 すると、牢屋に入れられていた西の村長がゆっくり語り始めた。
「そうじゃ。その通りじゃ。この村の者は、 確かに初めは、意地をはっとった。関西弁の方が優れているんだと。でも、今は違う。 それぞれに理解し合いたいと、心から思っておるんじゃよ。」
「一番優れている方言なんて、どこにもないんや。」
私がそう言うと、関東の村長も、笑みを見せた。
「私は、おまえたち西の者が、自分たちが一番だと思っていると思いこんでいた。でも、それが本当でないことが分かった。すまなかった。私が、悪かった。」
村長の言葉を聞くと、関西の村の人から、どおっと大きな歓声がわいた。
「おおきに。」
「おおきに。」
「おまえら、関東の方言もすばらしいよ。」
関東の村長も泣いていた。
「美希さん。本当にありがとうございました。 これで、わたしたちも仲良く幸せに暮らせます。おおきに。」
「いえ、こちらこそ、おおきにです。」
「それでは、私が、おまじないでもとの世界に返しますよ。いいですか。」
そのとき、ことだまが走ってきた。
「待ってください。」
「ことだま。どうしたんだ。」
「美希、これ。」
「何?これ。」
渡されたのは、きらきら光る石だった。
「これは、前に森で拾った石なんだ。友情とおわかれの記念に・・・」
「おおきに。」
私は、お礼を言って、ポケットにしまった。「では、美希さん。本当にありがとうございました。」
「おおきに。」「おおきに。」
村の人たちの声が聞こえる。
「おおきに。」
私が、そう言った瞬間、辺りがふっと暗くなった。

気がつくと、いつもの牧場。いつもの夕日。いつもの夕方。
「美希ちゃん。」
でも、一つだけ違うところがあった。同じクラスの女の子数人が、私に話しかけてくれていた。
「美希ちゃん、今まで、ごめん。わたしたち、男の子にからかわれている美希ちゃんを放って置いて・・・。これからは、仲良くしてくれる?」
「うん。おおきに。あ、ちがうわ。ありがとう。」
「『おおきに』のままで、いいじゃん。男子がからかったって、わたしたちが注意してあげるから。それに、美希ちゃんは、『おおきに』って言ってる方が美希ちゃんらしくていいじゃん。」
私は、ことだま君に、心で話しかけていた。「ことだま君。人と人のつながりに方言なんて関係ないよね。私、君の村に旅して良かった。人と人のつながりを方言でさえぎっちゃいけない。いや、むしろさえぎれないことが分かった。」
ポケットで、ことだま君からもらった石が、音を立てた。あれは、夢なんかじゃなかった。「ことだま君に教えてもらったよ。方言には、言いも悪いもない。それぞれにすばらしいだって。」
「ことだま君。おおきに。」