ロシア絵本と篆刻の融合

「篆刻アート」と名付けた作品14点が09年9月に、ロシアを訪ねる奇縁を得た。きっかけは2004年の夏、東京で「幻のロシア絵本1920‐30年代展」を見たことにさかのぽる。
革命を経たロシアでは、新しい国づくりに燃えた若い画家たちの手で、子どもたちのための絵本が多く制作された。当時、さまざまな分野で展開された芸術運動「ロシア・アバンギャルド」の優れた成果の一つとなったモダンな絵本は、国境を超えて西欧でも感動を生み、20世紀の絵本を代表する潮流となった。
これらの絵本が展示された企画展を見て、デザインの斬新さと個性的な色彩にすっかリ魅了された。その中の「前衛性」こそロシア革命が生んだ文化的成果だ。篆刻を伝統の呪作から解き放つために、さまざまな試行錯誤をしてきたが、篆刻とロシア絵本の「前衛性」を融合させてみたいと心が躍った。
例えば、ロシア絵本に登場するサーカスのゾウの背中に、古代文字で「宝」と彫った花瓶の篆刻を加えた作品。これは中国で、ゾウが背中に花瓶を載せた「太平有象」という図案が、縁起が良いとされていることに由来する。また、絵本に描かれたふとっちょおじさんのラッパから、古代文字の「楽」を音符のように飛び出させてみたり。
こうした作品は05年、金沢市で小さな発表の機会を得た。それが4年後ロシア児童文学者の仲人で、めでたく現地との良縁が結ばれることに。
お相手はサンクトペテルブルクにある児童図書館だ。「ロシア絵本と篆刻の融合ーある アバンギャルド展」と題した展覧会は、アールヌーボー様式の伝統的な建物の一室で開催。露日友好協会の会長や、児童文学者ら約80人が集まった。
現地では「作品の中のどこに篆刻があるの?」と多くの人に聞かれた。そんなに深く融合できているなら最高だな、と内心安堵している。この小さな試みが、日本、中国、ロシアの文化交流の一ページになってくれればうれしい。


