リレーエッセー
〜せせらぎを見下ろして〜
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〜むかしむかし。あるところに仲のいい兄弟がいた。旅に出て谷川沿いを歩いていると、ふと、弟が立ちどまり、「兄さん、あそこに…ほら!」。…深い緑をたたえた玉(ぎょく=美しい石)があった。「よかったな!見つけたおまえのものだよ」。…しばらく行くと今度は兄が立ちどまった。「あ、ここにも!」…紅く燃えるような玉だった。「よかったね!兄さん」。ふたりは一つずつ大切にふところにしまって幸せな気分で歩き続けた。
やがて橋にさしかかった。…兄が足を止め、じっと川を見下ろしている。…「兄さん…?」。とつぜん兄はふところの玉をとりだすと、力まかせに川に投げ落とした。「どうしたの?」…弟が尋ねた。兄は静かに答えた。
「一つずつ玉を持ったとき、最初は幸せだった。だがそのうち、おまえのその緑の玉も欲しくてたまらなくなってきたのだ。…おまえを殺して奪おうかとさえ…。この橋にさしかかり、下を見たら、清らかなせせらぎに自分の顔がうつっていた。その時、おれは震え上がった。恐ろしくなった。おれは憎んだ。玉を、おれの心を…。『ああ、この玉のために!…これさえなければ!』…だからおれは投げ捨てた」。
これを聞いた弟は泣きながら叫んだ。「僕もだ。僕もそうだったんだ!」。彼もまた玉をつかむと谷底に力の限りに投げ捨てた。
ふたりは、すがすがしい心になり、前にも増して仲良く、幸せに旅をつづけた。〜
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学生時代、石母田正氏(歴史家)の著書に紹介されていたアジアの民話です。読んで美しくも恐ろしい話だと心を打たれました。本はすでに手元になく細部の自信はないのですが本筋にまちがいはなく、私の中では以上のごとく再生〜定着しています。ある講演会で「貧しさは共有できる。しかし豊かさの共有は難しい」という言葉を聞いたとき、突然、この民話が私の心に生々しくよみがえってきたのでした。ところで、この話をわが子(さわか・ゆたか)の保育園時代、クリスマスパーティーでサンタに扮し、金紙と銀紙でつつんだボールをもって独演したことがあります。子どもたちはぽかーんとした顔で見ていました。さすがに難しかったなー。
執筆者 川野恭司
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