基本色とその混色



これから述べることは、効率的に混色するための私なりの考え方です。厳密なデータに基づいたものではなく、絵を描きながらの経験に基づくものです。私と同じく絵を趣味とされる方の参考にしていただければ幸いです。
(混色の仕方、色の作り方、し方、方法、コツ、油彩、油絵、絵画、色名、三原色。)

1 なぜ基本色か

人物画・風景画・静物画といった写実的な絵の制作は、キャンバスの上に自然を再現することでもあります。どの程度忠実に再現するかは、その人の考えや感性に基づくわけですが、必要とする色を素早く的確に作れるなら、それに越したことはありません。

絵の具は混ぜて使うものです。2、30色もの色をパレットに出す人もいるようですが、全く混色せずに絵を描く人を見たことはありません。また、沢山の色を用意し、それを混色したからといって良い絵が描けるわけではありません。緑色の絵の具を何本も用意して、それらを混色しても、似たような緑色ができるだけです。

沢山の絵の具を用意するよりも、たとえば緑色が黄と青の混色で出来ていて、しかも簡単に作れることを知っていることの方が、遙かに価値のあることだと思います。混色で出来た緑にわずかの赤や白を混色すれば、さらに変化に富んだ緑を作ることが出来ます。

色には混ぜては作れない3つの原色(黄、赤、青)と、これらの原色を元に作れる無数の色があります。カラー印刷なども黄(イエロー)、赤(マゼンタ)、青(シアン)の3色のインクですべての色(色相)を作っています。

図1: 色料の3原色

絵を描く場合、原色の黄・赤・青に完全に対応する絵の具があって、あらゆる混色が可能であれば申し分ないのですが、実際にはそのような絵の具(油絵の具)は存在しないようです。(水彩絵の具では開発されているとのことです。http://www.alps.or.jp/match/showroom/show01.html を参照。)

しかし完全対応は無理でも3原色に限りなく近く、実用上問題のない色があれば、大いに利用すべきであるし、それで不十分な点については、ほかの色でカバーすればいいと思います。このように考えると、「基本色」としてあげられる色はかなり限定されてくるように思われます。

2 技術書に見る基本色

様々な画家が絵を制作する上での「基本色」を掲げ、実践しています。参考までにいくつか上げてみましょう。
池田清明
『人物画テクニック』
一枚の繪
鈴木輝實
『わかりやすい混色教室』
グラフィック社
レイ・スミス
『油絵 人物を描く』
美術出版社
アルウイン
『アルウインの楽しい油絵教室』
岩崎美術社
・カドミウムイエローペール ・レモンイエロー
・カドミウムイエロー
・カドミウムイエローペール
・イエローオーカー
・カドミウムイエロー
・イエローオーカー
・カドミウムレッドディープ
・クリムソンレーキ
・カドミウムレッド
・クリムソンレーキ
・パーマネントローズ(キナクリドンレッド)
・カドミウムレッド
・カドミウムレッド
・クリムソンアリザニン
・コバルトブルーライト
・ウルトラマリンディープ
・セルリアンブルー
・ウルトラマリン
・ウインザーブルー (フタロシアニンブルー) ・コバルトブルー
その他 ・ウインザーグリーン (フタロシアニングリーン)
・バーントシェンナー
・ビリジャン

ここにはカドミウムイエローのように共通に使われている色もありますが、イエローオーカーなどのように必ずしも純度が高いとはいえない色もあります。画家の個性が出ていると言うことでしょう。


3 私の基本色

次の絵の具を使っていますが、それは今までの私の経験に基づくものです。(いずれも耐光性記号は***以上。)

黄…カドミウムイエローペール
赤…ブライトレッド、クリムソンレーキ
青…ハイドレンジャーブルー、ウルトラマリンブルーディープ

この5色で絵の95%はカバーしていると思います。残りの5%はたまにコバルトブルーやカドミウムオレンジなどを使うことがあるためです。なお白はチタニウムホワイトとパーマネントホワイトです。

ここに述べた基本色について若干説明したいと思います。

(1) カドミウムイエローペール
たぶん黄の原色に最も近い色だと思います。これに白+微量の青、あるいは赤を混ぜるだけでレモンイエロー、ミドルイエローなどができます。

(2) ブライトレッド
純度の高い強い色で、イエローと混ぜると鮮やかなオレンジ色ができます。カドミウムレッドディープよりも発色がいいようです。

(3) クリムソンレーキ
暗くて濃い赤。透明色で、赤系統の物を描くときに使いますが、緑と混ぜて物の陰を暗くするときなどにも使います。

(4) ハイドレンジャーブルー
やや緑味を帯びた濃い青で、セルリアンブルーよりも幅のある混色が出来ます。橙系の色と混ぜて茶系統の色が作れます。(最近コバルトブルーに代わって私が使いだした色です。)

(5) ウルトラマリンディープ
赤味を帯びた青。ブライトレッドやクリムソンレーキと混ぜると紫系統の色ができます。

以上、色の性質について述べましたが、混色の原理の説明としては全く不十分です。そこで実際に絵の具で作った図で説明しましょう。


4 混色の実際

下の図は3原色に近い黄、赤、青の油絵の具で混色の原理を示そうとしたものです。


図2:基本色による混色

黄はカドミウムイエローペール、
赤はブライトレッド、
青はハイドレンジャーブルーです。

橙、紫、緑およびその他は上記の色を混色して作ったものです。全般に薄塗りしていて、白、黒は混ぜておりません。

説明を加えます。

(1) 橙は黄と赤、紫は赤と青、緑は青と黄で作られます。紫以外はほとんど彩度が下がりません。紫が鈍い色をしているのはここで取り上げた赤、青の絵の具ともに黄色の成分が含まれているからだと思います。

(2)  3原色を混ぜると黒になりますが、図でも中央部分が黒に近い色になっているのがわかります。また、180度反対の色(補色)を混ぜても黒になりますが、それは結局3原色を混ぜることになるからです。このことから黒の絵の具は無用であることが分かります。

(3) グラデーション部分は、互いに補色が少しずつ混じって行くことを示します。補色関係を知ることは、特に物の陰の色(暗部)を作る上で極めて重要なことです。たとえば、レモン(果物・黄)の陰を少量の紫を混ぜることで作ることができます。橙系の肌色に青を、赤リンゴに緑を、緑の繁みに赤を混色すると、それぞれ陰の色(暗部)を表現できます。

(4) 前に述べていますが、比較的きれいな紫を作るには、クリムソンレーキとウルトラマリンブルーが必要です(下図)。ウルトラマリンには赤が含まれているため黄(カドミウムイエローペール)と混ぜるとやや鈍い緑が出来ます。

 図3: 混色で紫を作る

(5) 絵というものは相対的な要素から出来ているもので、ある部分(色)を美しく見せるために,他の部分を低彩度にする場合があります。それには、
ア 補色を混ぜて彩度を下げる(黒も作れる)、
イ 白を混ぜて彩度を下げる(白は無彩色)、
ウ 補色も白も混ぜて彩度を下げる(灰色も作れる) といった方法があります。

次に、図2の色すべてに白を混ぜて作ったイメージを示します(図4)。結局前に述べた混色原理の図とこの白を加えた図を頭に描ければ、ひとまずどんな色でも作れることになります。

図4: 基本色による混色(高明度)

この図は実際に白を加えたものではなく、図2に画像処理をして明度を高めたものです。


その他として、色に関連したことをもう少し述べましょう。

(1) 基本色に慣れてくると、特定のある色を作るのにどの色とどの色を混ぜればよいか分かるようになります。「絵の具は3色以上混ぜない方がよい」などと言われるのは基本色のことではなく、黒(3原色が含まれている)や白の成分の入った中間色の場合に該当する言葉だと思います。そのような色は「混ぜる、混ぜない」よりも使わない方が良いのです。基本色で作れるのですから。

(2) 上に述べた混色に関することのほかに、実際の制作にあったっては透明色、不透明色の区別を考慮しなければなりません。それぞれの特徴をうまく組み合わせれば表現の幅が広がります。基本色の中ではクリムソンレーキ、ウルトラマリン、ハイドレンジャーブルーが透明色で、これらの色を普通に混色するだけである程度透明感は出るわけですが、「さらに透けて見えるような感じ」を出したければ解き油を多くして(絵の具は少なくして)上からかぶせるように塗ります。黄色の透明色にはオーレオリンなどがあり、透明色にも混色の原理は当てはまります。

(3) 明るく不透明な感じを出すための一手段として白を混色します。私はチタニウムホワイトを多用しますが、うっかり使いすぎると画面を白っぽくしてしまいます。このような着色力の強い色を狼色(おおかみいろ)と言うそうです。白はパーマネントホワイトなどが一般的ですが、厚めに塗りたいときはこちらがいいようです。

(4) 下に塗った色がその上に塗った色に滲み出す場合があります。昔クリムソンレーキでそんなことがあって、私はその色を敬遠していたのですが、近年は改善されて、取り立てて問題にならないようです。しかしメーカーにもよると思うので、上からホワイトを塗って滲み出ないかどうかテストしてみることをおすすめします。もし滲み出るようであれば、その色(混色した色も)は最上層にしか使えないということになります。


3原色の近似色を中心に自分なりの「基本色」を定め、混色の原理に基づいて自在に混色できるようになることは、絵を描く者にとっては極めて大切なことと言えるでしょう。

基本色とその混色について、まだ言い足りなかったこと、あるいは舌足らずの点もありそうです。気がついたら追加していきたいと思っています。
(2006.12.9)
実際に描くことで絵の具の癖を知り、使いこなしていけるようになりますが、それでも次のことを追加しておきます。

(1)ハイドレンジャーブルーは大変濃い色なので、混色の際、他の色を食ってしまいます。狼色といってもいいでしょう。初心者向きではありません。特に人物画の肌の陰影を表す場合などは、この色よりもコバルトブルー(ペール)の方が適していると思います。

(2)同じ色の名前でもメーカーによって色調が異なる場合があります。私はH社のもので説明してきましたが、K社のブライトレッドはやや青みを帯びていて、乾燥も遅めです。良し悪しの問題ではなく、色の個性と捉え、必要なら使えばよいということです。

(3)ホワイトは全て不透明と思っている方もいるかもしれませんが、H社の場合、チタニウムホワイトは「不透明」、他のパーマネントホワイトなどは「半透明」(以前は半不透明)となっています。この2種類は区別して使われることも想定して作られていると思います。私は、チタニウムホワイトは下の色を隠すことを優先して塗る場合などに使い、パーマネントホワイトは深みのある明色を作る場合などに使っています。
 参考(2種類のホワイトそれぞれの混色のイメージ)
     チタニウムホワイトを使うと粉っぽく低彩度になりがち:
     パーマネントホワイト等では比較的彩度を保っている:
(2008.9.20)

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