機織り職人だった父の影響もあったのか、もともとは博多織の職人でした。敗戦後、世の中があれですから、山ん中に入って炭焼きをしとった。そんとき、仕事をやりながら、山の美しさを身にしみて感じたとです。それも春夏秋冬、朝から晩まで刻一刻と移り変わり、一瞬たりともじっとしようとはせん。ああ、この自然の色の美しさを何かにあらわせないか、と思うて。それを帯にたくせるんじゃないかというのが、夢になっていったとです。
 それで自然の材料を使うて、自然の色を再現しようと、草木染めをはじめた。ばってん、最初は研究また研究の毎日で。どうすればいい色が出るか、色落ちせんかを繰り返しよったとです。やっと作品になって、市場にも受け入れられるまで、たっぷり五年はかかったと思います。



 草木染の条件は、材料が豊富にあることと、水が美しいちゅうこと。幸い、秋月は原料にはこと欠かない。今もしょっちゅう山に入って、この葉っぱはどんな色になるだろうかと思うて集めよります。まだ染めていない、やりたい色が山にはいっぱいありますから。水質もねえ、北海道から沖縄まで実演して回ったけど、やっぱり秋月が一番。都会はひどいねえ。茜色に染まるはずが紫になってたまげたこともあったとですよ。
 ただ、同じもんを作ってくれと言われて困ることがようあります。芽がふく頃から枯れる前まで、季節によって色あいが違うてくる。それがまた毎年変わる。たとえば栗のイガは、寝かせた年数できれいな栗色から黒まで色が変化しよる。草木は二度と同じ色を出しよりません。自然というのは、それはそれは奥の深いもんですよ。だからこっちも夢中になる。



 今まで山に入っては、いろんな草木を持ち帰って試してみたばってん、染まるのは昔から民間薬として使われてきたものばっかりでねえ。草木に神秘な力があるというか、不思議なもんです。いや、当たり前なんかもしれんな。栗のイガで茶色に染めた侍の裃、藍で染めた野良着、どれも皮膚を守ったんだから。
 アトピー性皮膚炎で悩んで、うちに来られる方も多いとですが、化学繊維や化学染料は肌に悪い。わたしは皆さんに、肌着は木綿で、自分で草木染したものを着てくださいと言うとります。ハンカチ一枚でも、ぜひやってみてください。

小森 久:昭和三年、筑前秋月(福岡県甘木市)生まれ。自らの手で生み出した『本・草木染』の独創性と高い技術が評価され、昭和五十年には甘木市無形文化財に指定される。以来、博多織求評会や全国織物大会などで、文部大臣賞、厚生大臣賞、東京都知事賞、全国百貨店賞といった大賞を次々に受賞。薬草に関する研究も高い評価を受けている。