語源探索の旅--地名は古代の道標
はじめに
1 地名の起源
2 地名の表記
3 地名の解明
はじめに
・日本語における基語の存在の発見やその過程におけるエピソ−ドなどを記した「このすばらしき日本語」(昭和62年8月自費出版、平成元年3月東京新宿区岳書房出版)を発表した後の読者からの反響は本当に著者自身が驚くほどで、「初めて日本語の真の姿に触れることができた」との喜びの声や、「次の出版を期待する」との励ましの手紙などを多数いただきました。
・これは、各種語源の解明、特に身体語や数詞の謎解きを通じて、それまでの言語学者の説では納得できなかった読者の疑問を少しでも解消することができ、日頃使用している日本語がこんなにもすばらしい言語であったのかと、改めて認識していただけたからだと思います。
・そこで、さらに多くの方々に基語の存在と日本語のすばらしさをご理解いただくために、日本各地の多くの地名が、地形の特徴を元に古代において基語で簡明に名づけられていたことを立証してみたいと思います。さあ、「語源探索の旅」への出発です。「百音図」と「音の変化表」を携えて。なお、本著においては基語の詳しい説明は省略しておりますので、基語の発見の経緯や分析方法等について詳しくお知りになりたい方は、ぜひ、前著「このすばらしき日本語」(日本語の謎、古代の謎)〔平成元年、東京新宿岳書房〕をご覧になってください。(平成10年9月)
1 地名の起源
・日本各地の地名がいつ頃名づけられたかの確証はありませんが、中国史書の「魏志東夷伝倭人条(ぎしとういでんわじんじょう)」いわゆる「魏志倭人伝(ぎしわじんでん)」には、3世紀頃我が国に存在した「邪馬台国(やまたいこく)」ほか多くの地名が記述されており、さらに、1世紀中頃後漢の武帝から授かった金印にも「漢委奴国(漢のわのなのくに又は漢のいどこく)」の地名(現在の県名か地方名に当たる)が見られるので、地名の起源は紀元前に遡れる可能性があります。
・地名は、日本語の形成期(縄文時代以前)にはっきり固有名詞として形をなしていたとは言えないまでも、日本各地で発見される縄文遺跡出土の土器には、極めて広範囲の交流の跡が見られますので、当時の人々も水路を中心として行き来するために、地形の様子を主とした共通の呼び名(前地名)を利用していたものと思われます。これまでの基語による解析で、地名の多くが海や川から見た地形の様子であることが判明しているのもこれを裏づけています。
2 地名の表記
・我が国への漢字の渡来時期については諸説があって、朝鮮から王仁博士が千文字を伝えた西暦4世紀ごろを最初とする説が有力ですが、西暦57年に後漢の光武帝から授与された「金印」の文字が有意であったとすると、我が国には、既に西暦1世紀には文字を理解できる人々が存在していたとするのが合理的で、別研究「古代墳墓の碑石の解析」においても、起源前3世紀には既に我が国に漢字が渡来していたと思われる証拠が見つかっています。
・日本各地の地名は、一部仮名表記のものもありますが、大半は漢字で表記されています。そして、近年名付けられたことが明らかなものを除き、よく古い音を残しています。これは、文字を持たなかった古代の人々が文字を知ったとき、それまで使用していた地名の呼称とできる限り同じ音の漢字を当てようと、発音の微妙な差まで考慮して文字を選んだからです。その際、音だけではなく漢字のもつ意味をも含めて表現しようと努力したようですが、日本語と本質的に異なる中国語の音と意味の両方を、同時に満足して地名に当てはめることはできませんでした。だから、やむを得ず漢字の「音」のみを利用する方法や、自分たちが漢字に新しく読みを与えた「訓」を用いる方法を採用することにしました。
・こうして名付けられた地名には、漢字の音のみ(難波、愛知、伊勢など)あるいは訓のみ(吉野、名張、箱根など)を使用しているもののほか、音・訓混用のいわゆる重箱読みのもの(名古屋、茶臼山など)も多数できあがりました。
3 地名の解明
・一方、地名は古代からあまり大きな変化はなく、一部呼称の変わったものも古地図に元の地名が記載されていたり、平安時代に源順(みなもとのしたごう)によって編纂された和名類聚鈔(わみょうるいじゅしょう)には、真名を利用した読みが付記されていたりして、地名の元の音の推理を可能にしてくれます。
・地名が漢字の音を使用して表記されると、漢字からは地名の語源が理解できなくなりましたが、地名の不思議な音が何を意味しているのかは、やはり多くの人々の興味を引きました。しかし、音の意味も分からず、地名が地形を基に名付けられていることも忘れられて、やむを得ず、地名の由来を地名と同じ音を持つ他の言葉に求めようとしました。我が国最初の文献とされる古事記には、多くの地名の故事(地名の由来)が記されていますが、それらの地名の多くがこの方法によっています。地名辞典や各市町村などの作成している市町村史も、地名の語源欄はこれらの故事や言い伝えによっているものが多く、あまりこだわらないようにしていますが、もとの地名の音を知るのに役立ちますので、参考にしています。
・なお、地名の語源は、基語で推理した地名の様子を現地において確認したものが大半でしたが、現地に足を踏み入れて初めて気がついたものも決して少なくはありませんでした。
・地名は地形の特徴をよく表現しています。現在のように道路標識の整備されていない古代においては、地名は古代の人々の水路標識又は道路標識でした。地名どおりに地形を順に辿(たど)って行けば確実に目的地に到達できたのです。