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マーチ
土曜日の朝、NHKのFMラジオで『ブラスのかがやき』を聞いている。今どきの、8ビートとか16ビートには、とてもとてもついて行かれないが、マーチとなると安心してリズムに乗って体が動く。
新しいリズムに乗ってみようと、何とか格好をつけても、子供の頃から刻み込まれた根っからのリズム音痴では致し方ない。しかし土曜日の朝食の準備をしながらの金管楽器から流れる行進曲は毎日が日曜日の身の上でありながら、ある意味の生活リズムを刻んでくれるようで楽しい。とは言っても一生懸命聴くというのではなく、BGM的にただ何となく聞いているだけである。
ある日、多分九月の初め頃だったと思う。懐かしい曲が流れてくる「あれ!」と思わず心の中を何かが走った。耳を澄まして聞き入る。やっぱりあの曲だ。「ああ久しぶりだ」その曲とは戦時中の分列行進の曲である。
昭和十八年、学徒出陣の時に雨の神宮球場での学徒壮行会の時の曲である。それを陸上自衛隊の吹奏楽で全曲聴かせてくれた。曲の名前は「行進曲『抜刀隊』」だと言った。何とレトロな曲名だったんだろう。なるほど、あの曲には『我は官軍我が敵は・・』という当時でも古くさいと思われる歌詞がついていたことを思い出した。
歌詞はともかくあの曲の演奏された時代背景が懐かしい。軍国主義の時代だったと言って色々非難されるが、私たち世代にとってはかけがえのない青春時代だった。
懐かしい青春時代の前半がその時代に封じ込められていたことに間違いない。後半は今から考えてもおぞましい戦後の混乱時代だった。どう思い直しても懐かしいとか、楽しいとか、そんなことは微塵もない。それを乗り越えた頃にはもうすっかり青春時代は終わっていた。
あの行進曲で思い出すもっとも大きなイベントは、毎年五月に行われた「青少年学徒に賜りたる勅語」の発布記念の分列行進だった。名古屋市内の大学、高等学校、専門学校、中学校、女学校の生徒があのお城の下の広い練兵場にあつまって分列行進をした。その勅語の主旨などどうでも良い。あのすざさまじい、エネルギーのようなものは何だったろうと思う。あの埃っぽい空気もやっぱり私の青春の一ページだったに間違いない。
そのあとに演奏されたのは『君が代行進曲』だった。運動会の時はいつも君が代をアレンジしたあの曲だった。しばらく聞いていない懐かしい曲だった。
スーザの『星条旗よ永遠なれ』も良い曲だと思うが、私にはやっぱり前の二曲の方が懐かしくて好きだ。
それに『軍艦マーチ』もあるが、あの曲は戦時中の大本営発表の臨時ニュースに繋がるし、戦後はパチンコ屋からのすざましいスピーカーから流れていた音を思い出すし、右翼の街宣車からの騒音でイメージを悪くしてしまった。
(二〇〇一年一〇月)